わいワイ がやガヤ 町コミ 「かわらばん」

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2014年2月5日織田 作之助 (四)

昭和15年(1940)作之助は、出世作『夫婦善哉』を発表し、文壇に華々しく登場します。
梅新の化粧問屋の若旦那柳吉は、妻子も財産も捨て、一回りも年下の芸者蝶子と駆落ちします。
ところがぐうたらなぼんぼんですから、しっかり者の蝶子に、
「おばはん、たよりにしてまっせ」
と甘えてばかり。やむなく蝶子はいろいろな商いに手を出し、孤軍奮闘する物語です。あんなに好きで一緒になりながらけんかばかり、すぐに別れるといっては別れられぬ夫婦の機微を、下町の風情と人情を背景に見事に描いています。
この作品のモデルは、作之助の次姉山市千代と夫の虎次(とらじ)夫婦で、筋の大半は実話どおり、あれこれ商売をやって失敗し、最後は天王寺区の下寺町でカフェを開くのも、二人とも浄瑠璃に熱をあげるのも、全部姉夫婦の実生活をなぞっています。
「あんさんのこと作ぼんが書いてまっせ」
千代にこういわれた虎次は、赤鉛筆をにぎって、
「ようもほんまのこと書きよったな」
と、本のあちこちを塗りつぶしたといわれます。

『夫婦善哉』に登場する
法善寺横丁にあるぜんざい屋

小説の終わりに柳吉と蝶子は法善寺横丁のぜんざい屋に入り、柳吉は蝶子に知ったかぶりでこういいます。
「ここのぜんざいな。なんで二杯にわけてるか知らんやろ。こら昔、なんとかいう浄瑠璃の師匠が開いた店でな。一杯山盛りするより、わけたほうがぎょうさん入ってるように見えるいうて、工夫したんや」
蝶子はこう答えます。
「へえー、ひとりより夫婦(めおと)のほうがええということでっしゃろ」
どこか哀愁漂う幕切れが、題名の『夫婦善哉』のおこりです。
『夫婦善哉』は創元社から、作之助の初めての単行本として刊行されます。
「姉ちゃん、おかげさんでボクの本出ました」
表紙におたやん(お多福のこと)と水掛不動の提灯をあしらった『夫婦善哉』を片手に、さんざん泣かせた長姉竹中タツを訪ねた彼は、遠慮する姉を無理に道頓堀につれだし、とびきり上等のショールを買ってプレゼントします。こんなショールさわったこともないと喜ぶ姉に、すしとまんじゅうも渡しました。(続く)