わいワイ がやガヤ 町コミ 「かわらばん」

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2014年2月19日浅井 薫(四)

大正3年(1914)4月1日から、プールに板を張った特設舞台「宝塚パラダイス」で、日本初の少女歌劇が興行されます。演目は「ドンブラコ」「浮かれダルマ」それに集合ダンス「胡蝶」の三本立てです。
「お父ちゃん。ウチ、高峰妙子の芸名で、ドンブラコの桃太郎やるねん。初日、見に来てね。ね」
と、まだ14歳の娘にせがまれた父親の玉造署の警察官浅井寛竜は、目を白黒させ、
「ほんまに鬼退治の桃太郎やな。まさか濡れ場(男女の愛欲シーン)なんかないやろな。あったら風俗紊乱(びんらん)の罪で、お前を逮捕せなあかん」
と、モゴモゴ言います。

桃太郎(高峰妙子)

「娘を芸人にしたことが上司に知れると、クビになるぞ」
と親類筋からもおどされる時代でした。
「あほ言わんといて。みんなお化粧するさかい、桃太郎がウチやいうことも、誰にもわからへん」
と娘に肩をたたかれて、父はおずおずと宝塚へ向かいました。
舞台装置は食堂のボーイさんたちが作り、衣装とメーキャップは宝塚温泉の芸者衆がひきうけます。出演する「宝塚少女歌劇養成会」の一期生は、総勢16名。なにしろ初めての舞台ですから、ウロチョロするばかり。芸者衆がつかまえて着せ替え 人形のように手取り足取り着せるのですが、メーキャップの濃いこと、歌舞伎役者のような厚化粧です。
観客の大半は、温泉に入浴していたオッチャンたちでした。
「オイ、歌劇てなんや」
「知るかい。桃太郎の昔話やさかい、派手な立廻りのある鬼ごっこやろ」
「アホ言え。女の子ばかりやないか。鬼さんこちらと、手とって踊る芝居や」
板張りに敷いたござに座ったオッチャンたちは、頭に手ぬぐいをのせ、いっぱい機嫌で勝手なことを言いますが、幕が開くやいなや、
「むかし むかし そのむかし じいさまとばあさまが おったとさ…」
と、まるで小学校の学芸会のように黄色い声をはりあげて、舞台せましと歌い踊る少女たちを見て、ヒャァと声をあげました。

おまけに せりふにまで奇妙なメロディがついているのです。
「なんじゃ、これ」
とびっくりするオッチャンたちに、物知り顔のご隠居さんが教えます。
「これはな、西洋のナニワ節じゃ」  (続く)